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2018年9月12日水曜日

リーマン計量を「導く」

ご無沙汰しております.
最近情報幾何の勉強をしており,その過程でリーマン計量がでてきたのですが,定義がやや天下り的だと思ったので自分なりに考察してみました.

 ベクトル空間とその双対

体K上のベクトル空間$V$を考えます.(よくわからない場合は$K$を実数として普通の実数ベクトルがなす空間を想像してください.)
このとき,関数$V\to K$のうち「良い性質を満たす」関数の集合$V^*$もまたベクトル空間になることが知られています.
この$V^*$を$V$の双対なベクトル空間といいます.

ここで$V$,$V^*$からそれぞれ一つずつベクトル$x$,$x^*$を取ってきましょう.
すると $x^*(x)$はKを返します.
このことから二項演算$\tilde{\cdot}: V\times V^* \to K$を定めることができます.(つまり$x\tilde{\cdot}x^* = x^*(x)$)

この二項演算$\tilde{\cdot}$を内積に変えていきます.

ベクトル空間の圏

得られた二項演算$\tilde{\cdot}$は$V$,$V^*$を引数に取ります.
しかし内積は$V$を2つ引数に取ります.
そこで,2つの$V$のうち一つを$V^*$に変換してしまうという戦略を取りましょう.

ここからは圏論の力を借ります.
(ベクトル空間の圏が完備であることに注意)

$V$を$V^*$にする変換は$V\to V^*$とかけます.
$V^*$は$V\to K$のことだったのでこれは$V\to V\to K$と書き直せます.
これに逆カリー化を施すと$V\times V\to K$ となります.
つまり,求めたい変換は$V\times V\to K$となります.

ベクトル空間の圏の直積はテンソル空間のことでした.
なので求めたい変換は$V\otimes V\to K$,つまり$V\otimes V$の双対空間ということになります.

リーマン計量

ここまでくればリーマン計量が一体何者なのかが見ててきます.
これまでの議論は任意の体$K$で成立しますが,多様体を考えるときは$K$は実数のみを考えます.

 上で得られた変換$T$を用いて,「内積っぽい」二項演算$\cdot : V\times V \to \mathbb{R}$を定めることができます.(つまり$x\cdot y = (T(x))(y)$)
実は$T$のうち$\cdot$が「内積にふさわしい性質」をもつものに限定したものがリーマン計量と呼ばれているものになります.

まとめ

  • リーマン計量は双対空間への変換$V\to V^*$とみなせる
  • 実態は$V\otimes V$の双対空間