ようやく期末試験が終わり、ブログを更新する時間ができました。
今回はFXのテクニカル分析の基礎中の基礎であるゴールデンクロスについて、簡単なモデルを立てて考えてみたいと思います。
ゴールデンクロスとは
FXを一度でもやったことのある人は知っていると思いますが、一度も触れたことのない人のために簡単に説明だけします。もし詳しく知りたい人がいればググってもらうのが早いです。
まず定義だけ先に言うと、ゴールデンクロスは短期の移動平均線が長期の移動平均線を超えた点です。(移動平均線とは、現時点から一定期間前までの平均値です。)
なぜこのような点に着目するかというと、トレンドの変わり目を知りたい、つまり下降トレンドから上昇トレンドに変わったかどうかを判断したいからです。
ゴールデンクロスは短期の平均値が長期の平均値を上回る点ですから、トレンドが上昇に転じたと考えられます。よって一般的にゴールデンクロスでは買いをいれるというセオリーがあります。
数理モデル
今回は簡単のために、株価が局所的に以下の式で表せると仮定します。
$$f(t)=at^2+b\epsilon$$
$\epsilon$は平均0分散1の標準正規分布に従うノイズです。このときパラメータ$a,b$及び平均値を出す期間$N_s,N_l$にどのような関係があるのかを調べて行きたいと思います。
短期平均と長期平均の差$\Delta_{\epsilon}$は以下のようになります。
$$\Delta_{\epsilon}=\frac{1}{N_s}\sum_{i=1}^{N_s}(a(t-i)^2+b\epsilon_i)-\frac{1}{N_l}\sum_{i=1}^{N_l}(a(t-i)^2+b\epsilon_i)$$
$$=\left(\frac{1}{N_s}-\frac{1}{N_l}\right)\sum_{i=1}^{N_s}(a(t-i)^2+b\epsilon_i)-\frac{1}{N_l}\sum_{i=N_s+1}^{N_l}(a(t-i)^2+b\epsilon_i)$$
まずノイズ項について考えます。分散に関する公式を用いると、$\Delta_{\epsilon}$の分散$\sigma^2$は
$$\sigma^2/b^2=\left(\frac{1}{N_s}-\frac{1}{N_l}\right)^2N_s+\left(\frac{1}{N_l}\right)^2(N_l-N_s)=\frac{1}{N_s}-\frac{1}{N_l}$$
ゆえに標準偏差$\sigma$は
$$\sigma=b\sqrt{\frac{1}{N_s}-\frac{1}{N_l}}$$
となります。つまり、$\Delta_{\epsilon}$のノイズ項以外の部分を$\Delta$とすると、$\Delta_{\epsilon}$は平均$\Delta$分散$\sigma^2$の正規分布に従います。
次に$\Delta$について考えます。ここで等式
$$\frac{1}{N}\sum_{i=1}^N (t-i)^2=\frac{1}{N}\left(t^2N-2t\frac{1}{2}N(N+1)+\frac{1}{6}N(N+1)(2N+1)\right)$$
$$=t^2-t(N+1)+\frac{1}{6}(N+1)(2N+1)$$
を用いると
$$\Delta/a=\frac{1}{N_s}\sum_{i=1}^{N_s}(t-i)^2-\frac{1}{N_l}\sum_{i=1}^{N_l}(t-i)^2$$
$$=\left(-t(N_s+1)+\frac{1}{6}(N_s+1)(2N_s+1)\right)-\left(-t(N_l+1)+\frac{1}{6}(N_l+1)(2N_l+1)\right)$$
$$=(N_l-N_s)\left(t-\frac{1}{3}(N_s+N_l)-\frac{1}{2}\right)$$
ゆえに
$$\Delta=a(N_l-N_s)\left(t-\frac{1}{3}(N_s+N_l)-\frac{1}{2}\right)$$
となり、$\Delta$は$t=t_0=(N_s+N_l)/3+1/2$で0となります。
考察
以上の結果をまとめておきましょう。
$$\Delta_{\epsilon}=\Delta+\sigma\epsilon$$
$$\Delta=a(N_l-N_s)\left(t-\frac{1}{3}(N_s+N_l)-\frac{1}{2}\right)$$
$$\sigma=b\sqrt{\frac{1}{N_s}-\frac{1}{N_l}}$$
$$t_0=\frac{1}{3}(N_s+N_l)+\frac{1}{2}$$
上の結果はノイズの標準偏差$\sigma$とトレンドを感知するまでの時間$t_0$がトレードオフの関係にあることを示しています。つまり$\sigma$を小さくしようとすると$t_0$が長くなってしまい、逆に$t_0$を短くしようとすると$\sigma$が大きくなってしまいます。
$$t_0=\frac{1}{3}(N_s+N_l)+\frac{1}{2}$$
上の結果はノイズの標準偏差$\sigma$とトレンドを感知するまでの時間$t_0$がトレードオフの関係にあることを示しています。つまり$\sigma$を小さくしようとすると$t_0$が長くなってしまい、逆に$t_0$を短くしようとすると$\sigma$が大きくなってしまいます。
さらに議論を深めてパラメータ$a,b$についても考察してみましょう。
ノイズがない場合は$t=t_0$で$\Delta=0$となります。しかし実際はノイズが乗った値$\Delta_{\epsilon}$が観測されるので、$t=t_0+\delta t$において$\Delta_{\epsilon}>0$となる確率を求めておきましょう。
$t=t_0+\delta t$のとき、$\Delta=a(N_l-N_s)\delta t$となります。よって$\Delta_{\epsilon}$は平均$a(N_l-N_s)\delta t$分散$\sigma^2$の正規分布に従います。標準正規分布の上側確率、つまり標準正規分布で$u$以上の値が出る確率を$Q(u)$とおくと、$t=t_0+\delta t$において$\Delta_{\epsilon}>0$となる確率が$1-Q(u)$となるのは
$$\frac{a(N_l-N_s)\delta t}{\sigma}>u$$
$$\delta t>\frac{u\sigma}{a(N_l-N_s)}=u\frac{b}{a}\sqrt{\frac{1}{N_lN_s(N_l-N_s)}}$$
この結果を見ると$a/b$がSN比としての役割を果たしていることがわかります。